AI法とは|罰則のない日本のAI法で経営者が押さえる2つの条文と線引きの考え方
日本にもAIの法律があると聞いたけれど、罰則がないなら読まなくてもいいのではないか。取引先から「御社はAIをどう扱っていますか」と聞かれたら、何と答えればいいのか――AIを業務で使い始めた会社の経営者から、こうした迷いを聞くことがあります。
この記事では、2025年6月に公布され、同じ年の9月に全面施行された日本のAI法について、全28条のうち経営者がまず押さえる第七条と第八条、罰則がないことの意味、総務省・経済産業省の「AI事業者ガイドライン」との違い、そして自社のAIの使い方の線引きを公の言葉で説明する方法を紹介します。当協会の工藤は、罰則がないからこそ、線をどこに引くかは各社が自分で決めることになると考えています。
AI法とは|罰則がないのに経営者が読むべき理由
この法律には、罰則がひとつもありません。守らなくても、罰金も過料もない。では、経営者は読まなくていいのか。工藤は逆だと考えています。
知らなくても罰されない。だから差がつく
罰則のある法律なら、知らない会社も、いずれ誰かに教えられます。取引先や顧問の先生が「それは違反です」と止めてくれる。
罰則のない法律では、誰も止めに来ません。読んだ会社と読まなかった会社で、差がついたまま進みます。
その差は、罰を受けるかどうかではありません。自社のAIの使い方を、外に向けて説明できるかどうかです。取引先から「御社はAIをどう扱っていますか」と聞かれたとき、答えられるかどうか。ここで差が出ます。
AI法の全体像|全部で28条、経営者が読むのは2つ
法律の正式名は「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」です。長いので、AI法と呼ばれています。
中身は4つの章に分かれていて、全部で28条あります。
- 総則(第一条〜第十条)
- 基本的施策(第十一条〜第十七条)
- 人工知能基本計画(第十八条)
- 人工知能戦略本部(第十九条〜第二十八条)
後半の多くは、国がどういう組織をつくり、どういう計画を立てるかの話です。会社の経営者は、まず第七条と第八条の2つを押さえれば十分です。
AI法の第七条と第八条|事業者と国民で書き方が違う
第七条:AIを使う会社は「協力しなければならない」
第七条は「活用事業者」、つまりAIを使う会社に向けた条文です。末尾はこうなっています。
第四条の規定に基づき国が実施する施策及び第五条の規定に基づき地方公共団体が実施する施策に協力しなければならない。
第八条:国民は「協力するよう努めるものとする」
第八条は、国民に向けた条文です。同じ場所が、こう書かれています。
第四条の規定に基づき国が実施する施策及び第五条の規定に基づき地方公共団体が実施する施策に協力するよう努めるものとする。
会社のほうが一段強く書かれている
会社には「しなければならない」、個人には「努めるものとする」。同じ協力の話なのに、会社のほうが一段強く書かれています。
AIを業務で使う会社は、この法律の中では「頑張ってください」ではなく「協力する側」として名指しされている。まずこの位置づけを知っておくと、ほかのニュースの読み方が変わります。
AI法に罰則がないことの意味
とはいえ、全28条のどこを探しても、罰金・懲役・過料の定めはありません。「しなければならない」と書いてあっても、守らなかったときの罰は用意されていない。
海外には、違反に重い制裁金を科すAIの法律もあります。日本は、その形を取りませんでした。
罰で縛らないということは、線の位置を会社ごとに決めてください、ということ。工藤はそう受け止めています。どこまで使ってよくて、どこから使わないか、です。
ほかの法律はAIを使う場面にもそのまま当てはまる
ただし、個人情報保護法や著作権法など、ほかの法律はAIを使う場面にもそのまま当てはまります。AI法に罰則がないことは、AIの使い方が自由だという意味ではありません。
AI事業者ガイドラインとは|法律ではない「目安」
AI法とは別に、総務省と経済産業省が「AI事業者ガイドライン」を出しています。2026年3月31日に第1.2版が公表されました。
このガイドラインは、自らを「非拘束的なソフトロー」と説明しています。参考にする目安であって、義務ではありません。法律とガイドラインを混ぜて「法律でこう決まっている」と言うと、話がずれます。
「人間の判断を介在させる」という考え方
ただ、目安として読む価値は十分にあります。たとえば、AIを使う側(AI利用者)に向けた章の冒頭に、こう書かれています。
人間の判断を介在させることにより、人間の尊厳及び自律を守りながら予期せぬ事故を防ぐことも可能となる。
AIに全部任せず、どこかで人が判断を挟む。そうすると事故を防げる。国の文書にも、この考え方が書かれています。
自社のAIルールを公の言葉に置き換える方法
工藤の線引き:取り消せない操作はAIに任せない
工藤は、AIに任せる作業と任せない作業を、ボタンの種類で分けています。次のような取り消せない操作は、工藤が中身を確かめてからでないとAIに実行させません。
- ログイン
- 公開
- 送信
- 削除
このルールは、法律を読んで作ったものではありません。ファイルを一括で移動したときに、移動先を確かめずに上書きしてしまった失敗がきっかけです。取り消せない操作をAIに任せると、同じことが起きる。そう考えて線を引きました。
ガイドラインの言葉で言い直す
その線を、今回ガイドラインの言葉で言い直すと、こうなります。
取り消せない操作の手前で、人間の判断を介在させている。
自分の経験から作ったルールが、国の文書の言い方で説明できる。取引先に聞かれたときも、これなら一言で伝わります。
ルールを法律に合わせて作り直す必要はありません。すでにあるルールを、公の言葉で言い換えられるようにしておく。それで十分です。
社内ルールそのものをこれから作る場合は「生成AIの社内ルールの作り方」もあわせてご覧ください。
明日からできる3つのこと
- 自社で、AIに触らせていない操作を1つ書き出す
- なぜ触らせていないのか、理由を1行で書く
- それを社内の誰か1人に説明してみる
3つ目で言葉に詰まったら、そこがまだ決まっていない場所です。
その30分を時間単価で考える
もうひとつ。この3つにかかる時間は、たぶん30分もありません。その30分の単価はいくらでしょうか。取引先に聞かれてから慌てて考える時間と比べて、どちらが安いか。一度計算してみてください。
まとめ
- 日本のAI法(2025年6月公布・同年9月全面施行)は全28条で、罰則がひとつもない。だからこそ、AIの使い方の線をどこに引くかは各社が自分で決めることになる
- 経営者がまず押さえるのは第七条と第八条。AIを使う会社には「協力しなければならない」、国民には「協力するよう努めるものとする」と、会社のほうが一段強く書かれている
- AI法に罰則がなくても、個人情報保護法や著作権法などはAIを使う場面にもそのまま当てはまる。AI事業者ガイドライン(第1.2版)は法律ではなく目安
- 自社のルールを法律に合わせて作り直す必要はない。すでにあるルールを、ガイドラインの「人間の判断を介在させる」のような公の言葉で言い換えられるようにしておく
出典
- 人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(内閣府)
https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/ai_act/ai_act.html - AI事業者ガイドライン(第1.2版)総務省・経済産業省 2026年3月31日
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/ai_shakai_jisso/pdf/20260331_1.pdf
岩手県AI活用協会のサポート
当協会は東京都八王子市と岩手県盛岡市に事務所を置いています。ご相談の内容に応じて、現地にうかがうこともあれば、オンラインで進めることもあります。盛岡でのAI活用支援については「盛岡のAI活用支援」のページもご覧ください。
AIの使い方の線引きを一緒に言葉にしたい方は、お気軽に無料相談からお問い合わせください。
※この記事は、工藤がnoteに書いた記事(罰則のないAI法に書いてあること)の内容を、ブログ向けに再構成したものです。

